習い事をしていないと、不利になる? 研究が言えること・言えないこと
夕方、スマホを開くと、同じクラスの子のピアノ発表会の写真が流れてくる。別の子は英語教室とサッカーと公文を掛け持ちしているらしい。うちは週1回の水泳だけ。
本人は放課後、家でレゴを組み立てたり、意味のわからない歌を歌ったりしている。楽しそうではあるけれど、ふと不安になる。このままで、置いていかれないだろうか。
日本では、小学生の約8割が何らかの習い事をしているという調査があります。まわりを見れば「やっていて当たり前」に見えるなかで、少ない・やっていないことは不利になるのか。
この記事では、習い事の効果を調べた研究が言えることと、実はまだ言えないことを分けて整理します。
海外の専門家や研究はどう説明しているか
先に要点を言うと、研究から見えてくる論点は3つあります。習い事で身につくものは確かにある。ただし「頭が良くなる」といった広い効果は、期待されているより弱い。そして、自由な遊びにも価値があると専門機関は整理している。順番に見ていきます。
1つ目です。アメリカでは、放課後の組織的な活動が子どもに与える影響が長く研究されてきました。社会性を伸ばす目的で設計された放課後プログラム69件をまとめて分析した研究(メタ分析。多くの研究を統合して傾向を見る手法です)では、参加した子ども(小学生から高校生)は、参加しなかった子と比べて、自信や学校への気持ち、成績などで良い結果が報告されました。
「子どもの予定を詰め込みすぎると心をむしばむ」という説を検証したレビュー(対象は児童期から青年期)でも、活動への参加はおおむね良い発達と結びついていて、詰め込みすぎの害を裏付ける証拠は弱い、というのが結論でした。ただし、活動量が非常に多い一部の子への負担まで否定したレビューではありません。
ここには大事なただし書きが2つ付きます。効果が確かめられたのは、目的とやり方がしっかり設計されたプログラムで、ピアノや水泳を含む習い事全般の効果が証明されたわけではありません。分析でも、順序立った、焦点のはっきりした設計のプログラムほど効果が大きいという結果で、「何かをやらせているか」より「その中身」が効くことを示しています。
また、これらの研究の多くは参加した子としなかった子を比べる観察研究です。もともとの家庭環境の違いが混ざっている可能性を除き切れません。
2つ目は、期待されているより弱かった効果の話です。「ピアノを習うと頭が良くなる」という説は有名です。ところが、音楽レッスンについて報告された254の結果、参加者約7,000人分を統合したメタ分析では、くじ引きで参加を割り付けるなど条件をそろえた質の高い研究に絞ると、知能や学力への効果はほぼ消えました。
この分析には、計算のやり方を変えると小さな効果が残るという反論(再解析)も出ていて、効果の再現性をめぐる議論はまだ決着していません。それでも、「賢くなるから」を理由にピアノを選ぶのは研究の裏付けとしては心もとない、とは言えそうです。音楽そのものが上達するという当たり前の価値は、もちろん別の話です。
3つ目です。アメリカ小児科学会は、大人が仕切らない自由な遊びが、感情の調整や社会性、自分で考えて動く力の発達を支えるという臨床報告を出しています。医師が「遊びの処方箋」を書くことを勧めるほど、遊びを発達の中心に置く内容です。
アメリカの6〜7歳70人を募って67人を分析した研究では、予定化されていない時間が多い子ほど、指示がなくても自分で物事を進める力が高い傾向も報告されています。ただしこれは1回きりの小規模な調査で、原因と結果の向きはわかりません。
言えるのは、放課後の時間は限られていて、習い事を増やせば自由な遊びの時間は減る、という配分の問題があることまでです。「習い事をやめれば力が育つ」という話ではありません。
海外の親たちの実際の声
同じ迷いは、アメリカの親たちも抱えています。掲示板Reddit(レディット)には、「習い事だらけの世界で、予定の少ない子を育てるジレンマ」というスレッドが立ち、540件を超えるコメントが付きました。
このスレッドの論調は「自由な時間こそ大事」に大きく偏っていましたが、別のスレッドでは習い事の多い生活を肯定する声も目立ちます。以下は各スレッドのコメントの抜粋・翻訳です。
子どもが自分の想像力と自主性を育てるには、予定のない自由な時間が必要です。他の親がやっていることに、自分の子育てを決めさせないで。ほとんどの親は正解なんて分からないまま、それぞれ精一杯やっているだけなんだから。
幼稚園から高校までずっと予定を詰め込まれて育ちました。おかげで、自分が本当に好きなことを見つける機会が一度もなかった。大学と20代は正直つらかったです。自分が何者かは分からず、周りが期待する自分しか知らなかったから。
(大人になってからの振り返りは印象に残りますが、あくまで一人の体験談で、習い事の量が原因だったのかは本人にも確かめようがありません。一方で、忙しい生活が合っている子の親からはこんな声も出ています。)
うちの子は放課後に体を動かしている方が学校の調子も安定します。丸1週間休ませてみたら、かえって授業に集中できず大変でした。ただ本人から「週に1日は休みが欲しい」と言われたので、そうしました。予定の少ない方が合う子も、忙しい方が合う子もいるんだと思います。
(共働きで週末に習い事をさせられない、というスレッドでは、罪悪感を打ち明けた投稿者に、こんな返信が付いていました。)
兄の家は子どもたちにたくさん習い事をさせて、自分のテニスの時間まである。そのからくりは、高収入と住み込みのシッターと毎週来る清掃業者。真似してみたら?
半分冗談の返信ですが、習い事の数は子どもの意欲だけでなく、送迎できる大人の数やお金といった家庭の条件で決まっている、という現実を突いています。
異なる見解と注意点
ここまでの話にも、割り引いて読むべき点があります。まず、課外活動の研究を広く見渡したレビューは、参加と発達の関係は「一貫しない、まだら模様」だと総括しています。対象は主にアメリカの中高生で、活動の種類や量、子どもの条件によって、良い関連が出たり出なかったりするのです。
また、この分野の研究の多くは小学生以上を対象にしています。就学前の子どもについては、習い事の効果を確かめた質の高い研究がそもそも乏しく、「早く始めるほど得」という説にも、それを支える確かな根拠は見当たりませんでした。
分かっていないことは、分かっていないと言うしかありません。
逆方向のただし書きもあります。波及効果が弱いという話は、習い事に価値がないという意味ではありません。泳げるようになる、楽器が弾けるようになる。その活動で練習した技能が身につくことは、全般的な波及効果とは別の、そのままの価値です。
「効果がないなら全部やめていい」もまた、研究からは言えないのです。
日本の家庭で取り入れるなら
日本の事情を確かめておきます。冒頭のとおり小学生の約8割が習い事をしていて、2024年の調査では人気の内訳は水泳31%、英語などの語学21%、ピアノなどの音楽20%と分散しています。
費用については、塾なども含む「学校外教育活動費」として小学生で平均月1.5万円ほどという2017年の調査があり、同じ調査では保護者の7割が「お金がかかりすぎる」と答えています。平均額はあくまで平均で、これだけかける必要があるという基準ではありません。
研究が「何個が正解」を教えてくれない以上、決め手は家庭ごとの確認になります。チェックリストというより、ときどき思い出す問いとして、4つ挙げます。
1つ目は、その習い事の目的をひとことで言えるか。泳げるようになってほしい、体を動かす場がほしい、放課後の居場所がほしい。どれも立派な目的です。逆に「賢くなりそうだから」は、研究の裏付けが弱い目的だと分かった上で選ぶことになります。
2つ目は、いつもの就寝時刻と、予定のない時間が残っているか。何時間なら多すぎるという線は研究からは引けませんが、自由な遊びの時間がほぼ消えているなら、それは何かと引き換えになっています。
3つ目は、家族が無理なく続けられるか。月謝だけでなく、送迎を誰が担うのか、道具や発表会の費用、きょうだいの予定との両立。学童や保育園から直接通える教室かどうかも、共働きの家庭には現実的な分かれ目です。
子どもが楽しんでいても、親が消耗し切る形は長く続きません。
4つ目は、本人が「休みたい」「続けたい」と言える余地があるか。先ほどのRedditの親の家庭では、子どもの側から調整を言い出せたことが見直しのきっかけになっていました。量を見直す手がかりのひとつになります。
そして、いま習い事をしていない、または少ない家庭へ。今回確認した範囲では、習い事をしないことで子どもの育ちが全般的に劣ると示した研究は見当たりませんでした。
放課後に家でレゴを組み立てている時間は、研究の言葉で言えば自由な遊びで、それ自体が発達を支える活動です。
総括
この記事の要点です。
- 習い事で身につくものは実在する。ただし効果が確かめられているのは目的と設計の明確な活動で、「何かやらせているか」より中身が効く
- 「ピアノで頭が良くなる」型の波及効果は、質の高い研究に絞るとほぼ消えるというメタ分析がある(反論もあり論争中)
- 予定のない自由な遊びにも、アメリカ小児科学会が臨床報告で整理するほどの価値がある
- 「しないと不利」も「しない方が育つ」も、どちらも証明されていない。決め手は目的・本人との相性・家庭が回るかどうか
冒頭の場面に戻ると、発表会の写真を見た夜に必要なのは、あわてて何かを申し込むことではなさそうです。いまの放課後をお子さんが楽しめているか、家族が無理なく回っているか。
そこが大丈夫なら、よその予定表と比べる材料は、研究の側からはほとんど出てきません。
参考資料
公的機関
研究・論文
- Durlak, Weissberg & Pachan (2010) 放課後プログラムのメタ分析
- Mahoney, Harris & Eccles (2006) 詰め込みすぎ仮説の検証レビュー
- Sala & Gobet (2020) 音楽訓練の認知・学業効果のメタ分析
- Bigand & Tillmann (2022) 上記への再解析コメンタリー
- Farb & Matjasko (2012) 課外活動と青年期発達のレビュー
- Barker et al. (2014) 非構造化時間と自己主導的実行機能の研究
日本の調査
- 東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査」
- ベネッセ教育総合研究所「第3回 学校外教育活動に関する調査2017」
- ベネッセ「小学生の習い事調査」(2024年)
引用したRedditスレッド
- The dilemma of raising under-scheduled kids in an over-scheduled world
- Weekends and Extracurriculars - am I crazy?
- Over scheduling kids.. as bad as it’s made out to be?
この記事は情報の翻訳・整理であり、医療的な診断・治療の助言ではありません。 子どもの発達や健康について気になる状態が続く場合は、かかりつけ医や 自治体の相談窓口にご相談ください。