「叱らない子育て」はどこまで叱らないのか。甘やかしと燃え尽きの間の現実解

朝の光が差すリビングで、着替えの途中の子どもをしゃがんで手伝う親の後ろ姿の水彩風イラスト

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朝の支度で、子どもが着替えの途中で遊び始める。時計を見て、二度、三度と声をかけて、最後は大きな声が出る。玄関を出てから、さっきの自分の声を思い出して気が重くなる。そんな朝に覚えのある方は多いはずです。

SNSでは「叱らない子育て」という言葉を見かけます。とはいえ、「本当に何ひとつ叱らないわけではないらしい」ということも、多くの親はもう気づいています。分からないのはその先です。どこまでが「叱ってもいい」で、どこからが「やってはいけない」のか。

この記事では、海外の研究がその線をどこに引いているかを整理します。先に方向だけ言うと、研究が問題にしてきたのは「叩くこと・恥をかかせること」で、「注意すること・止めること」ではありません。

海外の専門家や研究はどう説明しているか

「叱らない子育て」は、アメリカやイギリスなど英語圏では「ジェントル・ペアレンティング」(gentle parenting、穏やかな育児といった意味)という名前で広まりました。2015年前後にイギリスの育児書の著者が使い始めた言葉で、学術用語ではありません。

このため「叱らない子育てというやり方全体が子どもに良いのか」を検証した研究は、実はまだ存在しません。研究があるのは、その中身を要素に分けたときの、要素ごとの話です。

まず、「やめるべき」側の要素です。叩くこと(体罰)については、過去50年分・16万人分の研究をまとめた分析(こうした統合分析をメタ分析と呼びます)で、攻撃性の増加や心の不調など、調べた項目の大半で悪い結果との関連が報告されています。2024年の別のメタ分析でも同じ方向で、叩き方が強いほど関連も強くなっていました。

関連は見られるが、それが原因とまでは言い切れない、という種類のデータではあります。それでも、叩くことに利点があると示した研究は見当たりません。

言葉についても、アメリカ小児科学会は2018年の指針で、怒鳴りつけることや恥をかかせること、侮辱することを、叩くことと並べて「行わないように」としています。ここで研究が対象にしているのは、恐怖や屈辱を与えることを手段として繰り返す叱り方です。忙しい朝に一度声が大きくなったことの影響を、個別に判定できる研究ではありません。

次に、「残してよい」側です。同じアメリカ小児科学会の指針も、WHO(世界保健機関)の親支援ガイドラインも、「叱るな」とは言っていません。

勧めているのは、してよいこと・いけないことの区切りをあらかじめ決めて、ぶれずに伝えて守ること。そして、望ましい行動を具体的に認めることです。この「区切りを決めて、ぶれずに守る」ことを、この記事では「線を引く」と呼ぶことにします。

1,400件以上の研究をまとめたメタ分析でも、温かさと明確な要求を併せ持つ育て方は、平均的には子どもの良好な発達と小さく関連していました。多くは観察研究なので、線引きが原因で発達が良くなるとまでは断定できません。それでも、一貫した線引きそのものを有害だとする根拠は見当たりません。

つまり、要素ごとに見ると整理はしやすいのです。叩くこと・辱めることには、研究では悪い方向の関連が積み重なり、公的指針は避けるよう勧めている。一方、注意することや、決めたことを守り続けることは、公的指針が勧める側にあり、観察研究の関連も同じ方向を向いています。

アメリカの経済学者で育児情報サイトを運営するエミリー・オスター氏も、「叱らない子育て」はそもそも定義がはっきりしないため検証しようがなく、根拠があるのは流派を問わず共通する要素の方だ、と整理しています。

海外の親たちの実際の声

海外の親たちは、この「どこまで」を日々の生活の中で試行錯誤しています。アメリカ発の掲示板Reddit(レディット)の育児コミュニティでは、「叱らない子育ては、何でも許す甘やかし(英語圏では放任と呼ばれます)とは違う」という整理が、親たち自身の手で何度も繰り返されてきました。言葉の曖昧さに、親たちも苦労していることがうかがえます。以下はスレッド内の投稿の抜粋・翻訳です。

まず、「叱らない子育てで燃え尽きた」というスレッド。400件以上の共感が集まりました。

叱らない子育てを始めて4年になるけれど、もう燃え尽きてしまった。気持ちを受け止めて、感情のサンドバッグになって、妥協案を考えて、何でも楽しいゲームに変えて。「やめて」と言ったことで子どもが痛い思いをしても、ぐっとこらえて口を挟まずにきた。

その4年の末に、子どもが泣き叫んでいても共感がまったく湧かない自分がいる。気づけば、思っていたより多く声を荒げて、「もう〇〇はなしだよ」と脅すようになっていた。


別のスレッドでは、実践を続けている親が「叱らない」の中身をこう説明しています。

叱らない子育てには大きな誤解があると思う。本当は、子どもの気持ちに耳を傾けて受け止めながら、一貫した境界線を守ること。決して「ノー」と言わない育児ではないし、嫌がることをさせない育児でもない。

息子は家族の一員だから意見を言えるし、親の決定に腹を立ててもいい。でも、家族みんなに関わることを人質に取ることはできない。


同じスレッドには、やり方を組み替えた親の率直な報告もありました。

私は叱らない子育てに「失敗」した側の人間。今も子どもの視点に耳を傾けるし、気持ちも受け止める。でも、境界線を守り抜くための道具が足りなかった。

罰や褒め言葉を避けようと膨大な調べものをしたけれど、結局それらを取り入れたら、家族の生活はずっと良くなって、親としての消耗も減って、娘との関係もむしろ良くなった。それこそ、この育て方がくれるはずだったものなのに。

3人目の報告は一つの家庭の体験であって、罰の効果を示す根拠ではありません。それでも、「理想の形」と「続けられる形」の間で親たちがやり方を調整している様子は、共通しています。

異なる見解と注意点

ここまでの整理にも、割れている部分があります。体罰の悪影響を示したメタ分析に対しては、別の研究チームが確かめ直し(追試・再解析)を行い、「関連の大きさはごく小さく、強い悪影響を主張するのは行き過ぎだ」とする対立するメタ分析を2024年に出しています。関連の大きさや因果関係を巡る議論は続いていますが、それでも「叩くことに利点がある」と示せた研究はなく、公的な指針が他の手段を勧めている状況は変わりません。

また、タイムアウト(その場から離れて落ち着かせる方法)のような個別のやり方については、「親子の絆を損なう」という批判と「正しく使えば損なわない」とする研究の両方があり、決着がついていません。特定のやり方まで一律に禁止する根拠は固まっていない、というのが現時点の正直なところです。

もう一つの留保は、文化の違いです。育て方と子どもの発達の関連の強さは、国や文化によって変わることがメタ分析で示されています。ここで紹介した研究の多くは欧米のもので、その結論がそのまま日本の家庭に当てはまるかには、幅を見ておく必要があります。

そして、親の側の負担です。アメリカの100家庭を調べた2024年の調査では、叱らない子育てを実践していると答えた親の約35%が、聞かれてもいないのに不安や「自分はうまくできていない」という感覚を語りました。一方で、同じ調査では実践している親の育児満足度はむしろ高いという結果も出ています。

親の消耗そのものを検証した研究ではなく、一つの国の小規模な調査ですが、先ほどの燃え尽きたという投稿と似た問題意識がうかがえます。

日本の家庭で取り入れるなら

日本では実は、公的な線引きがすでにあります。こども家庭庁は「しつけ」と「体罰」をこう区別しています。しつけは、子どもの人格や才能を伸ばし、社会性を育むためのサポート。体罰は、身体に苦痛や不快感を意図的に与える行為。

ポイントは、親の動機ではなく行為の性質で決まることです。「しつけのつもり」でも、叩けば体罰にあたります。2019年の法改正で、親による体罰は法律でも禁止されました。著しい暴言も同じ枠で扱われています。

裏を返せば、日本の公的な整理も、海外の指針と同じ場所を見ています。法律が禁じているのは体罰で、公的な資料が虐待として挙げるのは著しい暴言などです。注意すること・止めること・決めた区切りを守ることは、禁止の対象になっていませんし、海外の指針ではむしろ勧められている側です(個々の行為がどの区分に当たるかを、この記事で判定することはできません)。

「一周回って、昔のようにビシッと叱ることも必要なのでは」という問いには、こう答えられます。怒鳴りや叩きに戻る根拠はなく、叱ること自体をやめる必要もない、と。

では、残す側を日常でどう回すか。順番にすると、このくらい小さくてよいはずです。

  1. 短く止める。「叩きません」「道路では手をつなぎます」。理由の説明は後でよく、まず一文で
  2. 決めたことは変えない。泣かれても、その場で要求はのまない。ただし気持ちは否定しない(「嫌だったね。でも、やることは変わらないよ」)
  3. 危ない場面は体で防ぐ。道路では手をつなぐ、危ないものから離す。声を張り上げる代わりに、先に安全を確保する
  4. 落ち着いてから気持ちを扱う。その場で分からせようとしない

時間のない朝なら、「着替えたら続きをやろう」と約束だけ残して、着替えは手伝ってしまう。集合住宅で泣き声が気になる場面なら、説得を続けるより場所を変える。どれも「叱り方」の一部で、声を張り上げずに済むことも増えます。

そして、声を荒げてしまった後には、やり直しができます。言い訳をせず、「さっきは大きな声を出したね。ごめんね。でも、朝は着替えることは変わらないよ」と言い直す。謝ったからといって、決めたことまで取り消す必要はありません。

なお、日本ではセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの調査(2021年、大人2万人対象)で、体罰を容認する大人は2017年の約6割から41.3%に減ったと報告されています。社会全体の線引きが動いている途中の時期に、私たちは子育てをしていることになります。

総括

この記事の要点です。

冒頭の朝に戻ると、目指せる一つの現実的な形は「怒鳴らない完璧な親」ではなく、「短く止めて、決めたことは変えず、後で言い直せる親」なのだと思います。どこまで丁寧にやるかは、お子さんの気質と、その日の親の側の余裕で変わります。平均の話が目の前のお子さんにそのまま当てはまるとは限らないことも、含めてです。

参考資料

公的機関

研究・論文

専門家の解説

日本の調査

引用したRedditスレッド

この記事は情報の翻訳・整理であり、医療的な診断・治療の助言ではありません。 子どもの発達や健康について気になる状態が続く場合は、かかりつけ医や 自治体の相談窓口にご相談ください。