ご褒美で子どものやる気は壊れるのか。40年の研究でわかっていること・いないこと

リビングの壁に貼ったシール表の前で、シールを1枚貼る子どもとそばで見守る親のイラスト

この記事は動画でも見られます。読むより聞きたい日は、こちらをどうぞ。

リビングの壁に貼ったシール表。宿題が終わったら1枚、朝の支度が時間内にできたらもう1枚。始めて数か月、前より子どもが動くようになった実感はあります。

ところが夜にスマホを開くと、「ご褒美で釣ると自主性が育たない」という投稿が流れてきます。うちのやり方は、子どものやる気を削っているのだろうか。かといって、シールをやめたら朝はまた元どおりになる気もします。

この記事では「やる気」を、ご褒美がなくても自分からやり続けること、という意味に決めて話を進めます。研究の世界でも、ご褒美を外したあとの自由な時間に、その子が自分からその活動を選ぶかどうかで測られてきました。行動がその場で改善するか、成績が伸びるかは、これとは別の問いになります。

結論を先に書いておきます。宿題のシール表を、今日やめる必要はありません。気をつけたほうがよいのは「子どもがもともと好きなことに、先に約束して物のご褒美を出す」場面です。ここは、立場の違う研究者たちの指摘がいちばん重なっている場所です。この記事では、その線引きを順番に見ていきます。

海外の専門家や研究はどう説明しているか

「ご褒美は子どもをダメにする」という言い方が日本にも広まった元をたどると、アメリカの教育評論家アルフィー・コーン氏の『Punished by Rewards』(1993年)に行き当たります。ただしこれは研究を集計したものではなく、一人の論者の主張です。研究の側は、もう少し込み入った話をしています。

出発点になったのは、アメリカ・スタンフォード大学の附属幼稚園で1973年に行われた実験です。対象は3〜5歳(生後40〜64か月)の子ども51人。もともとお絵かきが好きだと確認できた子だけが選ばれました。

子どもたちは3つのグループに分かれました。ひとつ目は「上手に描けたら賞状をあげる」と事前に伝えてから描くグループ。ふたつ目は何も伝えずに描いてもらい、終わってから不意に賞状を渡すグループ。3つ目は賞状のないグループです。

Lepper らの1973年の実験では、1〜2週間後の自由遊びの時間にお絵かきを選んだ時間の割合は、予告ありが8.59%、予告なしが18.09%、賞状なしが16.73%でした。下がったのは予告ありのグループだけです。

この実験が示したのは、ご褒美そのものの害というより、「これをやったらあれをあげる」と先に約束することの効きめでした。51人を対象にした1回きりの実験なので、これだけで一般化はできませんが、その後半世紀続く論争の出発点になりました。

もっと広く見渡した結果もあります。実験128本をまとめた分析(メタ分析)です。Deci・Koestner・Ryan の1999年のメタ分析では、予告つきで形のあるご褒美(おもちゃ、賞品、お金など)を出すと、そのあと自分からその活動を選ぶ度合いが下がりました。下がり幅は、小さめから中くらいの差です。

同じ分析で、よかった点を言葉で伝えることは、逆にやる気を上げていました。そして形のあるご褒美の下がり方は、大学生よりも子どもで大きいと報告されています。この記事が子どもの話をしているうえでは、見過ごせない点です。

小児科の実務側の手引きもあります。アメリカ小児科学会(AAP)の保護者向けページは、ご褒美表やポイント制を使うこと自体は認めています。そのうえで、どの行動に出すのかを具体的に決めること、できなかったときに減点する方式は避けること、行動が身についたら段階的に外していくことを挙げています(元の資料は5〜12歳向けの案内です)。

ただしこれは「ご褒美はやる気を壊さない」という判定ではありません。このページは内発的なやる気への影響を調べた資料ではなく、短期的に使うときの設計の話をしています。

海外の親たちの実際の声

理屈と生活のあいだで迷うのは、海外の親も同じです。研究の話が好きな親が集まるアメリカ発の掲示板Reddit(レディット)には、「シール表は子どもの内発的なやる気を下げるのか」というスレッドがあります。以下はスレッド内のコメントの抜粋・翻訳です。

つまらない答えですが、状況次第です。短期間なら、やり方をかなり絞れば、シール表が本当に効く子もいます。

ただ、よく起きる問題があって。何をすればシールがもらえるのかの基準を、大人がずらし続けること。シールそのものに気持ちが向きすぎて、身につけたい行動が置き去りになること。頼りすぎること。そもそもシールに興味がない子もいること。それから、どれだけ頑張っても届かない目標は、子どものやる気を強くくじきます。

教員としての実感では、こうしたご褒美は、ごく控えめに使うぶんには効果的でした。


この話で90年代の読書チャレンジを思い出しました。小学3年生のとき、無料のピザ欲しさに本を読み始めたんです。そうしたら本そのものが大好きになって、ピザはどうでもよくなりました。

読んだ本1冊がシール1枚で、一定数たまるとピザがもらえる、単純で具体的な仕組みでした。30年たった今でも読書が大好きです。


幼い子へのご褒美表はありかなしか、を尋ねる別のスレッドには、はっきり反対の声もあります)

私は専門家ではありませんが、シール表には賛成できません。好きな臨床心理学者が、はっきり「勧めない」と言っているんです。シール表は、子どもがうまくやれるようになるために必要な力を育てる、という肝心な部分を見落としているから。

ご褒美を出したり出さなかったりすることより、気持ちの健康的な出口を一緒に見つけるほうが、その子の役に立つと私は思っています。


基本的に、シール表への依存はできるだけ小さくするのがよいです。家事のような興味を持ちにくいことに対価を払う場合でも、言葉で認めることを併用してください。習慣がしっかり身についたら表は段階的に外し、言葉かけも時々に減らしていきます。

ある親向け講座では、シール表を使うのは「その行動がまったく起きていないか、ごくまれにしか起きていないとき」だけと教えています。行動を立ち上げる短い期間だけ使い、あとは習慣を言葉で支える、という順番です。

内発的なやる気は親が育てられるものなのか、という別のスレッドから)

一番の問題は、多くの親が内発的なやる気と外発的なやる気の違いを正しく理解していないことだと思います。親は「言われなくても片づけをする子」を内発的だと思いがちですが、本来は「それ自体が楽しいからやる」ことを指します。

研究では、もともと楽しんでいたことにお金を払うとやる気が下がることが示されています。だからうちでは、娘が動物の世話でお小遣いを稼ぐようになってから、動物への愛情そのものが薄れていないかを時々確かめるようにしています。

異なる見解と注意点

反対の結論を出した大きな研究もあります。行動の研究者たちによる1994年のメタ分析は、実験96本をまとめて、ご褒美は全体として内発的なやる気を下げないと結論しました。下がるのは限られた条件だけで、下がり方もわずかだ、という主張です。

同じ研究者らは2001年に、30年分・100本を超える実験を条件ごとに並べ直しています。Cameron・Banko・Pierce の2001年の整理では、もともと興味の薄い課題にご褒美を出すとやる気はむしろ高まり、下がるのは、もともと興味の高い課題に予告つきの形あるご褒美を出したときでした。

どの条件で裏目に出やすいかについては、立場の違う研究者たちの指摘が大きく重なっています。割れているのは、その影響がどれだけ広く、どれだけ大きいのかという評価です。研究を保護者向けに紹介している Emily Oster 氏や Cara Goodwin 氏も、証拠は割れており設計次第だ、という中間の立場を取っています。

「効く」と「壊さない」は別の問い

教室で使われるシール表やポイント制(トークンエコノミー)については、Kim らの2022年のメタ分析があります。アメリカの幼稚園から小学5年生を対象にした研究24本をまとめたもので、通常学級でも特別支援学級でも、子どもの行動に大きな効果が見られたと報告されています。

ただしここで測られているのは、行動が変わったかどうかです。この記事の冒頭で決めた意味での「やる気」ではありません。制度をやめたあとどうなるかも、この分析は扱っていません。「効く」と「やる気を壊さない」は、同じ問いに見えて別の問いです。

決着していない理由

このテーマには、有名な1本の実験が追試で崩れた、という分かりやすい決着がありません(追試とは、別のチームが同じ実験を確かめ直すことです)。ご褒美を外したあとに取り組みが減るという現象そのものは、いろいろな研究で繰り返し検出されています。論争は、メタ分析どうしの解釈の違いとして続いてきました。

分かっていないのは、実生活での大きさと持続です。毎日のシール表を1年続けたらどうなるかを正面から調べた質の高い研究は、見当たりませんでした。

手がかりに近いものとして、アメリカで読書にピザや金銭のご褒美を出す取り組みを扱ったFlora らの1999年の調査があります。子ども時代にそうしたご褒美を受けたかどうかは、大学生になった時点の読書量にも読書への興味にも関係していませんでした。ただしこれは大学生に当時を思い出して答えてもらった調査なので、因果は言えません。「ご褒美は必ず害になる」という強い言い方は支持されない、という程度の材料です。

研究以前に、仕組みでつまずくこともある

やる気の理論とは別に、運用の側でよく起きると指摘されている問題もあります。基準が高すぎて達成できず、実質的な罰のようになってしまう。ご褒美がだんだん膨らんでいく。回数だけこなして中身が雑になる。この3つは、内発的なやる気の話が始まる前の、仕組みの問題です。

人との関わりに物を出すとき

もうひとつ、慎重に考えたい場面があります。ドイツの研究所で行われたWarneken と Tomasello の2008年の実験では、20か月の子どもに物のご褒美を渡すと、そのあとの自発的な手伝いが減りました。褒めるだけの群と、ご褒美なしの群では変わっていません。

ただし対象は20か月児で、この記事が想定する3〜12歳より下です。1回きりの実験でもあります。家庭で続けているお手伝いやお小遣いの習慣まで、同じように「避けたほうがよい」とは言えません。人を助ける行動に物を出すときは少し立ち止まってみる、という材料にとどめておくのが妥当なところです。

日本の家庭で取り入れるなら

日本でこのテーマが広く知られるきっかけのひとつになったのは、中室牧子さんの『「学力」の経済学』(2015年)でした。「テストの点ではなく、本を読むことにご褒美を出す」という有名な整理の出所は、アメリカ4都市の学校で約2万7千人を対象にした Fryer の2011年の実験です。

ただ、この実験には日本での紹介で抜け落ちがちな注意書きがあります。都市ごとに仕組みも結果も違い、著者自身は「学力への効果は統計的にはっきりしない」と慎重に書いています。「行動へのご褒美なら必ず効く」という法則ではなく、点数そのものより「本を読む」のような具体的な行動のほうがご褒美の設計がしやすい、くらいに受け取っておくのが実際に近いところです。

お手伝いとお小遣いを結びつけるかどうかは、日本ではしばしば「教育上どうなのか」という道徳の問題として語られます。ここは研究で決着している問いではありません。アメリカ小児科学会もお手伝いの手引きの中で選択肢のひとつとして触れるにとどめています。決着していない以上、家庭の方針で決めてよいことです。

そのうえで、ここまでの研究の条件を毎日の場面に置き換えると、線の引き方はシンプルになります。子どもが自分から始めた遊びや、すでに夢中になっていることには、物のご褒美を足さない。裏目に出やすい条件として両陣営の指摘が重なっているのは、まさにここでした。がんばりを認めたいときの言葉のかけ方は、別記事「「すごいね」を我慢する必要はあるのか」で扱っています。

逆に、宿題や朝の支度のようにやりたがらないことには、「始める助け」と割り切って使えます。どの行動に出すかを先に決めて、できたらすぐ、小さく渡す。ただし外したあともその行動が続くかどうかは、研究でもまだ分かっていません。だから始めるときから、身についたら外す前提で組んでおきます。

日本の家庭で見落としやすいのは、すでに生活の中にあるご褒美との重なりです。通信教育や塾のポイント、学校のがんばりカードと家のシール表が重なると、家庭によっては子どもの一日がご褒美だらけになっていることもあります。家で新しく足す前に、いま何が動いているかを数えてみる価値はあります。きょうだいがいる場合の公平感と、共働きで毎日続けられる仕組みかどうかも、理論より先に効いてくる制約です。

続けている途中の見直しの目安は3つです。ご褒美の要求がだんだん膨らんでいく。「これやったら何くれる?」の交渉が増える。回数だけこなして中身が雑になる。研究で検証された基準ではありませんが、どれかが出てきたら、子どもの問題ではなく仕組みの調整どきと考えるほうが、家庭を回すうえでは実態に合っています。

総括

答えをまとめます。ご褒美でやる気が壊れるかどうかは、ご褒美そのものではなく「何に、どう出すか」で決まります。「ご褒美で釣ると自主性が育たない」という言い切りは、研究が支えてくれる範囲より広すぎる主張です。守ることは、次の3つに絞れます。

そして、どの研究も平均の話です。シールが強く効く子も、まったく興味を示さない子もいて、同じ仕組みが同じように働くとは限りません。目の前のお子さんに当てはまるかは、様子を見ながら調整していく部分です。

宿題のシール表が回っているなら、今日やめる必要はありません。研究がいちばんはっきり懸念を示してきたのは、すでに好きなことへの予告つきのご褒美という、別の場所です。長く続けた場合のことが分かっていないからこそ、外し方まで考えて使う。それが、いまの研究との現実的な付き合い方です。

参考資料

公的機関

研究・論文

専門家の解説

日本語文献・日本の調査

引用したRedditスレッド

この記事は情報の翻訳・整理であり、医療的な診断・治療の助言ではありません。 子どもの発達や健康について気になる状態が続く場合は、かかりつけ医や 自治体の相談窓口にご相談ください。